拓殖大学大学院 客員教授 田中 修
12月11~12日、党中央・政府共催による中央経済工作会議が開催され、2025年の経済政策の基本方針が決定された。
まず経済の直面する困難・試練については、「国内需要が不足し、一部企業の生産・経営が困難で、大衆の雇用・所得増加が圧力に直面しており、リスク・潜在的危険が依然かなり多い」とし、これを克服するには、困難を直視し、自信を確固として、各方面のポジティブな要因を発展の実績に転換するよう努力しなければならないとする。
24年のマクロ政策の基本方針としては、より積極的で有為なマクロ政策を実施しなければならないとした。この会議に先立って2月9日に開催された党中央政治局会議では、「通常を超える(中国語では『超常規』)カウンターシクリカルな調節を強化しなければならない」という一文が盛り込まれていたが、中央経済工作会議は、これを削除した。
この「超常規」という表現は、これまで全く用いられていなかったもので、「非伝統的」「異次元」に近い印象を与えるものであり、2008年のリーマン・ショック時に発動された、極端な財政支出拡大・金融緩和の再来を想起させるものであった。これまで人民銀行は、欧米・日本が採用した「ゼロ・マイナス金利政策」「異次元緩和」といった政策を採用しなかったことを誇りにしていた。また、財政部も「財政の持続可能性」と財政規律を維持することを強調してきた。彼らからすれば、この「超常規」という表現は行き過ぎとされたのではないか。
事実、この会議のあと、人民銀行も財政省もマクロ・コントロールについては、「カウンターシクリカルな調節を強化する」という従来の表現を繰り返しているのである。
財政政策については「より積極的な財政政策」と、表現が強められ、①財政赤字の対GDP比率の引き上げ(一般国債の増発)、②財政支出の強度増加、③超長期特別国債の増発、④地方政府特別債の増発、⑤中央予算内投資の増加が列挙されている。
既に、23年11月8日の全人代常務委員会記者会見で藍佛安財政部長は、①地方政府特別債4兆元増加と地方債務限度額6兆元引き上げにより、10兆元の資金を確保して、地方政府の隠れ債務を法定債務に置き換える、②特別国債を発行し、国有大型商業銀行の自己資本を補充する、③地方政府特別債で遊休土地を回収し、土地備蓄を新たに増やし、分譲住宅在庫を購入して中低所得者向け「保障性住宅」として用いる、④中央の地方への移転支出規模を増やす、と発表しているので、使える財政手段を駆使して、景気浮揚と債務リスク軽減に取り組むということであろう。
この結果、財政赤字の対GDP比は、これまでの3%から大幅に(例えば4%以上に)引き上げられることになると予想される。他方で、12月23~24日に開催された全国財政工作会議は、「財政経済規律を厳格にし」「財政の持続可能な発展を促進」するとも述べている。
金融政策は「適度に緩和した金融政策」という、リーマン・ショック時に発動された大幅な金融緩和政策の表現が使用されており、①預金準備率の引下げ、②政策金利の引下げ適時実施が明記された。
ただ同時に、「マネーサプライの伸びを経済成長・物価総水準の予期目標と釣り合わせる」という、これまでのコントロール姿勢を維持している。
また、23年の中央経済工作会議の政策各論では、1位は「科学技術イノベーションにより現代化産業システムの建設をリードする」であり、2位が「国内需要の拡大に力を入れる」であった。しかし、今回は1位が「消費喚起に力を入れ、投資効果を高め、全方位で国内需要を拡大する」で、2位が「科学技術イノベーションにより、新たな質の生産力の発展をリードし、現代化産業システムを建設する」と順位が逆転している。
もともと、需要サイドより供給サイドを重視するのが、習近平政権の経済政策の特徴であり、23年の会議では、内需拡大より新たな質の生産力の発展が重要とされていた。しかし、サプライサイド構造改革は、中長期に中国経済の潜在的成長率を高めるには有用であるが、短期での成長率の押し上げ効果は低い。25年は第14次5カ年計画の最終の年であり、習近平政権としては、何としても25年の成長率を5%前後にしたいのであろう。
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