拓殖大学大学院 客員教授 田中 修
習近平総書記は9月26日、党中央政治局会議を開催し、7月30日に引き続き、今後の経済政策を手配した。7〜9月期のGDP成長率の発表を待たずに経済政策が検討されることは異例である。
国慶節直前にこのような慌ただしい経済テコ入れの動きが出たことは、経済の動向が容易ならぬ状況にあることを示すものであろう。事実、10月18日に発表された7〜9月期のGDP実質成長率は4.6%と、4〜6月の成長率4.7よりさらに落ち込み、1〜9月の成長率も4.8%と、年間目標の5%を割り込んだ。
政治局会議では、「現在、経済運営にいくらかの新たな情況と問題が出現している」とし、困難を正視し、緊迫感を高めなければならないとした。経済社会の年間目標について、7月30日の政治局会議は「年間の経済社会発展の目標・任務を断固完成させなければならない」としていたが、今回は「完成に努力しなければならない」に表現が変わった。5%成長達成に黄信号が灯ったということであろう。このため、マクロ政策については、「力を入れて新規政策を打ち出さなければならない」とし、経済のテコ入れ策を打ちだす旨を明らかにした。
財政政策では、「必要な財政支出を保証」するとしており、藍佛安財政部長は10月12日の記者会見で、超長期特別国債の発行による大型国有商業銀行の資本補充や、地方債の増発による地方の隠れ債務解消促進を示唆したが、具体額は公表していない。
金融政策では、「預金準備率を引き下げ、強力な利下げを実施しなければならない」とし、不動産市場への金融支援では、「不動産市場の下落に歯止めをかけなければならない」とし、分譲住宅の新規建設の抑制、「ホワイトリスト」住宅プロジェクトへの貸出強化、住宅購入制限政策の調整、既存住宅ローン金利の引き下げ等の政策を具体的に指示している。
また、資本市場の活性化では、中長期資金の市場参入誘導、上場会社のM&A・再編支援、中小投資家の保護等を指示した。
中央政治局会議に先立ち、人民銀行の潘功勝行長等は9月24日記者会見を実施して、金融緩和策のパッケージを発表し、27日に預金準備率と政策金利の引き下げ、29日に不動産関連の金融緩和、10月には資本市場活性化策を実施した。
政策パッケージの中身は、以下のとおりである。
①預金準備率を0.5ポイント引き下げ、金融市場に対して長期流動性約1兆元を提供する。さらに年内に、預金準備率をさらに0.25〜0.5ポイント引き下げる可能性がある。
②政策金利(7日物リバースレポ金利)を0.2ポイント引き下げ、貸出プライムレートと預金金利の0.2〜0.25ポイント低下を誘導する。
③商業銀行の既存住宅ローン金利平均0.5ポイント引き下げを誘導する。
④1軒目・2軒目住宅ローンの最低頭金比率を15%に統一する。
⑤デベロッパー向け既存融資の期限延長と営利的不動産業向け貸出等の一時的政策を2026年12月31日まで延長する。
⑥保障性住宅再貸出政策における中央銀行資金の支援割合を60%から100%に高める。
⑦デベロッパーの遊休土地の収用・購入を支援する。
⑧証券・基金・保険会社のスワップ・ファシリティを創設する。
⑨自社株買戻し・持ち株増加特別再貸出を創設する。
人民銀行が預金準備率と政策金利の引き下げを事前予告し、中央政治局会議を待たずに、包括的な金融緩和策を打ち出すことは稀である。それだけ、金融緩和の要求が高まっていたのであろう。
保障性住宅再貸出において、中央銀行の支援割合を60%から100%に高めたことは、地方国有企業による分譲住宅の在庫購入が思うように進んでいないことを示唆している。
また、倪虹住宅都市農村建設部長は10月17日の記者会見で、「ホワイトリスト」プロジェクトへの貸出規模を、現在の2.23兆元から、年末までに4兆元に増やすとした。
資本市場の活性化については、証券監督管理委員会が9月26日、①条件を備えた上場会社の自己株買戻しの奨励、②ファンド会社の投資研究核心能力の建設強化、③保険資金等のペイシェント資本の育成・壮大化等を内容とする「中長期資金の市場参入推進に関する指導意見」を公布している。
これら一連の経済テコ入れ策の効果を、今後しっかり見極める必要がある。
|目次に戻る|